投資信託・保険の説明責任をどう標準化するか

金融

三菱UFJ銀行・三十三銀行の導入事例から考える、顧客本位のロープレ設計

投資信託や保険の商品知識を学んでも、お客様の前で正確に説明し、ご意向を確かめながら提案できるとは限りません。金融営業の研修で問われるのは、覚えた内容を、相手の理解度に合わせて会話にできるかという実践力です。

説明責任を標準化するには、全員に同じ台本を読ませるだけでは足りません。共通に守るべき論点と、お客様に応じて変える伝え方を分け、発言を根拠に評価する必要があります。ここでいう論点は、何について話すか(トピック)のなかで、判断や説明が必要になる問いを指します。本稿では、三菱UFJ銀行様・三十三銀行様の公表された導入事例を手がかりに、金融商品の説明のロープレを、AIロープレ(AIロールプレイ研修)も活用しながら組織の教育へ組み込む方法を考えます。

金融機関の店頭・営業現場で「説明の属人化」が起きる構造的な理由

法令順守のチェックリストを読み上げるだけになり、お客様の意向把握がおろそかになる

説明事項が増えるほど、担当者の意識は「漏れなく読み上げること」に向きがちです。しかし、資金の使い道や必要となる時期、損失への考え方がわからなければ、ていねいな説明も提案の妥当性につながりません。

金融庁の「顧客本位の業務運営に関する原則」は、「手数料等の明確化」「重要な情報の分かりやすい提供」「顧客にふさわしいサービスの提供」を求めています。1研修では、確認項目を実際の質問へ変換する作業が必要です。「投資のご経験はおありですか」に続けて、過去の値下がりの局面でどう感じられたかをうかがうなど、お答えを深掘りする場面を練習に入れます。

若手の行員が元本割れのリスクを説明するとき、自信のなさが声に出る

お客様の反応が怖くて、リスクの説明を急いで終えたり、あいまいな言葉で和らげたりすることがあります。上長が「もっと自信を持って」と伝えるだけでは、次の面談で何を変えればよいかがわかりません。

練習では、どのような要因で損失が生じ得るか、どの資料を根拠に説明するか、ご理解をどう確かめるかを一続きにします。「それなら損をしないのですね」と返す架空のお客様を設定すれば、誤解をその場で訂正する練習もできます。指導にあたる方の経験を、ほかの支店でも再現できる練習課題へ変えることが、標準化の出発点です。

評価すべき「金融商品ロープレの5大観点」

① 意向把握の質問が、自然に行われているか

商品のご紹介の前に、資金の目的、運用期間、ご経験、資産の状況などを確認できているかを見ます。保険では、備えたいリスクや必要な保障、保険料のご負担に関するご意向も整理します。金融庁の「保険会社向けの総合的な監督指針」は、ご意向を把握した提案と、契約内容がご意向に合うことをお客様が確認する機会を重視しています。2質問の数だけで採点せず、お答えを受けて次の質問や提案を変えられたかまで確かめましょう。

② リスク要因・手数料が、断定的な表現なく説明できているか

値動きや為替など、対象商品の損失要因を、承認済みの資料に沿って説明します。「必ず増える」といった不確実な成果の断定を避ける一方、元本割れの可能性は明確にお伝えする必要があります。手数料は、購入時だけでなく、保有中・解約時に発生する費用も商品に応じて整理します。保険の保障内容と運用部分も区別し、保証の対象や条件を混同させない説明を評価します。

③ お客様の理解度に応じた言葉の言い換えができているか

専門用語を使えたことと、お客様がご理解できたことは別の到達点です。たとえば信託報酬を説明する練習なら、費用がかかる時期や負担の仕組みまで、資料の正確さを保って言い換えます。そのうえで「費用が発生する場面をどのようにご理解されたか、確認させてください」とうかがいます。「大丈夫ですか」へのうなずきだけで理解済みと判定しない設計が有効です。

④ 不利益事項を説明するタイミングが適切か

リターンへの期待が高まった後に、最後だけ早口でリスクを付け足す練習では、説明したという記録しか残りません。利益と損失の両面を検討していただけるよう、重要な注意点は、提案の判断に必要な時点でお伝えします。たとえば中途解約を気にされるお客様なら、解約時の条件や不利益を先に確認する場面を設けます。説明の順序と、その後の理解の確認を合わせて評価することが大切です。

⑤ 適合性の原則に合った提案になっているか

金融庁の「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」では、知識・経験・財産の状況・投資目的等に応じた勧誘と、商品の内容がお客様の属性に合う合理的な理由の検討が求められています。3ロープレでも「この商品をお勧めする理由」を、うかがったご意向と結びつけて説明していただきます。情報が足りないときに質問へ戻る、ご要望と商品が合わないときに提案を保留する、といった行動も評価の対象にします。

金融商品の相談で、担当者が目的・期間・経験を聞き、リスク・費用・条件を説明し、お客様の理解を確認して提案理由を示す4場面
図1 意向を聞き、リスク・費用を説明し、理解を確かめたうえで提案理由を示す。本稿の教育設計の例であり、会話の途中で必要な質問・説明へ戻ることも含みます。図を拡大表示

当社が会話の評価で用いている共通の観点は、「論点の網羅」「説明の正確性」「ヒアリング」「質問の質」「コンプライアンス」の5つです。4次の表は、これらと金融庁の基準を参考にした、本稿の評価表の設計例です。両行の実際の採点表を示すものではありません。

金融向け評価表の設計例

こちらの表は横スクロールできます
評価項目 2点:到達の目安 0点:要再確認の例
意向把握 目的・期間・経験等をうかがい、お答えを提案に反映する ご意向をうかがわずに商品を決める
リスク・費用 承認済みの資料に沿い、損失要因と費用を正確に説明する 元本を誤って保証する、重要な費用を落とす
わかりやすさ 意味を保って言い換え、ご理解を確かめる 誤ったたとえや、専門用語を並べただけで終える
説明の順序 判断に必要な時点で、重要事項をお示しする 不利益を省く、判断の後まで説明を遅らせる
提案の妥当性 お客様の属性と商品を結ぶ理由を説明できる ご意向に反する提案、情報が足りないままの勧誘

1点は、説明が一部不足している、または助言を受けて修正できる段階とします。重要な誤説明は合計点で相殺せず、上長・研修ご担当者の確認が終わるまで合格を保留します。この区分と合格の基準は、商品・場面ごとに研修部門とコンプライアンス部門が承認する運用の案です。

※ 上記は練習設計の例です。法令・監督指針への適合そのものを判定・保証するものではありません。

聞き方とわかりやすさが良くても、誤った元本保証があれば要再確認とし、指導にあたる方が発言と根拠資料を照合する評価の流れ
図2 重要な誤説明は、聞き方やわかりやすさの評価で相殺しない。AIによる一次評価を踏まえ、上長・研修ご担当者が発言と根拠資料を確認します。図を拡大表示

先行する金融機関(三菱UFJ銀行・三十三銀行)が取り組むAI対話トレーニング

支店や指導にあたる方の負担を抑え、若手の行員が「失敗できる練習環境」を用意する

SCSK株式会社は2025年9月8日、当社のiRolePlayを三菱UFJ銀行様へ提供したと発表しました。営業担当者を中心に活用され、一問一答のモードで金融商品の基礎知識を自ら学び、発話につなげる取り組みが紹介されています。同じ資料に掲載された三菱UFJ銀行様のコメントでは、担当者と上司・業務指導者の双方が、ロールプレイングの時間を捻出することが課題だったとされています。5

三十三銀行様は2026年5月13日の発表で、提案力の強化を目的としたiRolePlayの導入と、同月18日からの利用開始を公表されました。5月21日には株式会社チェンジ様も利用開始を発表しています。知識を覚える一問一答、面談を模した対話、評価と改善の助言を組み合わせ、営業担当者の提案品質の平準化と向上を目指す取り組みです。チェンジ様による利用状況の分析と、定着に向けた支援も説明されています。6

これらの事例から学べるのは、自分で繰り返す練習を、教育の中に組み込むという考え方です。実在のお客様の個人情報を含まない設定で、初めての質問や誤解への対応を経験できます。コースの確認や指導方針の整備は必要ですが、毎回の練習に上長が付き添う負荷を減らす設計ができます。

「トレーニング業務工数1/6」を、自社の教育設計で検証する

当社の導入企業様では、教育ご担当者のトレーニング業務工数が、導入前との比較で1/6になったという数値を確認いただいています。7この数値は、上記の両行の実績としてお示しするものではありません。

※ 導入企業様にご確認いただいた数値であり、当社が実験により算出した数値ではありません。すべてのお客様で同一の効果を保証するものではございません。対象・期間・測定条件などの調査設計は、ご商談時に個別にご説明します。

御社の金融営業研修で確かめる場合は、まず対象部門を絞り、コースの準備、練習への立ち会い、評価、個別指導の時間を、導入前後で同じ範囲で測ります。同時に、重要な論点の説明漏れや、再確認が必要な発言の件数も追います。時間の短縮と品質の改善は、別々の指標で確かめることが必要です。

本稿の運用の案は、基礎知識の一問一答、お客様の設定別の対話、弱い論点の再練習、上長による最終確認という順序です。お客様への対応へ進む条件は、受講回数や点数だけで決めず、重要事項を正確にお伝えし、必要な場面で相談できることまで含めます。上長・研修ご担当者は発言の根拠を見て、合格の判断と個別の指導に時間を使います。

金融機関の厳格なセキュリティ審査で確認する要件(AWS FTR・データ隔離)

研修のデータにも、商品資料、社内規程、受講される方の発話や評価結果が含まれます。導入時には、誰が閲覧できるか、何が外部で処理されるか、いつまで保存されるかを確認します。

iRolePlayとInteractive-Proは、2026年4月にAWS ファンデーショナルテクニカルレビュー(FTR)を通過しました。8FTRは、セキュリティ・信頼性・運用に関するAWSのベストプラクティスを確認する制度です。9金融機関ごとの審査では、自社の規程や利用の構成に照らした確認も必要です。

iRolePlayでは、入力データを基盤モデル(大規模言語モデル)の学習・改善に利用せず、データは当社クラウド上の御社専用サーバに保管します。管理者が指定した範囲での閲覧・分析と、Microsoft Entra IDなどを用いたSSO(シングルサインオン)にも対応しています。10

資料や発話のデータを企業専用サーバで管理してAI対話・評価に使うことと、基盤モデルの学習には使わないことを分け、保存期間・処理地域・閲覧権限の確認を示す図
図3 データをどこに、いつまで保管するかと、基盤モデルの学習・改善に使うかは、別の確認事項です。図は公表している機能を整理した概念図で、詳細なネットワーク構成や認証済みの適合範囲を示すものではありません。図を拡大表示

「専用サーバ」という言葉だけでは、物理的・論理的な隔離の方式や、運用者のアクセス範囲まではわかりません。モデルやAPIによるデータの保持・処理地域、ログの保存と削除、SSOの契約条件などを、情報システム部門とご確認ください。当社は、構成ごとの条件を個別にご説明します。基盤モデルに学習させないことと、データの保存条件を分けて確認すれば、審査時の認識のずれを減らせます。

まとめ——顧客本位の業務運営は、精神論ではなく「声に出す練習量」で定着する

顧客本位の業務運営を営業研修に定着させるには、理念を具体的な会話へ変える必要があります。ご意向をうかがう、重要なリスクをお伝えする、ご理解を確かめる、提案の理由を説明する。その行動を練習し、発言を振り返る機会を、組織として用意することが大切です。

練習量を増やすとともに、承認済みの評価基準と人による確認を組み合わせることで、支店を越えて教育をそろえられます。まずは一つの商品・場面から、重要な論点と本番へ進む条件を定め、自社の説明品質と指導時間の変化を確かめてみてはいかがでしょうか。

金融商品ロープレの設計を、ご相談ください

御社の承認済みの資料を使い、意向把握から重要事項の説明までのコースと、評価の例をご確認いただけます。資料をアップロードいただければ、最短20分で実際に動くコースをご覧に入れます(資料の分量により、目安20〜30分)。

金融機関向けAIロープレの詳細へ

出典

  1. 金融庁「顧客本位の業務運営に関する原則」(令和6年9月26日改訂版) 原則4〜6を参照。 本文へ戻る
  2. 金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」II-4 業務の適切性 II-4-2-2(3)意向の把握・確認義務を参照。2026年10月7日に掲載内容を確認。 本文へ戻る
  3. 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」III 共通編 III-2-3-2-1 適合性原則を参照。2026年10月7日に掲載内容を確認。 本文へ戻る
  4. 当社「会話の評価」 共通の5つの観点と、御社ごと・コースごとの調整、AIによる一次評価と人による確認。本文の評価表は、本稿で作成した設計例です。 本文へ戻る
  5. SCSK株式会社「三菱UFJ銀行にAI活用ロールプレイングソリューション『iRolePlay』を提供」(2025年9月8日) 営業担当者を中心とした利用、一問一答のセルフラーニング、三菱UFJ銀行様のコメントを参照。 本文へ戻る
  6. 株式会社三十三銀行「提案力強化に向けた『AIロールプレイングシステム』の導入について」(2026年5月13日) 導入の目的、3つの機能、株式会社チェンジ様による支援、利用開始日(5月18日)を参照。あわせて、株式会社チェンジ「三十三銀行、行員の提案力強化に向けAIロールプレイングアプリ『iRolePlay』の利用を開始」(2026年5月21日)。 本文へ戻る
  7. 当社「iRolePlay」——練習の効果は、数字にも表れています 教育ご担当者のトレーニング業務工数(導入前との比較)と、その注記。 本文へ戻る
  8. 当社「iRolePlayおよびInteractive-ProがAWS ファンデーショナルテクニカルレビュー(FTR)を通過」(2026年4月23日) 本文へ戻る
  9. AWS「Request Foundational Technical Review for your solutions」 FTRが扱うセキュリティ・信頼性・運用の基準。当社製品の個別の審査資料ではありません。 本文へ戻る
  10. 当社「セキュリティ・信頼」 基盤モデルの学習に利用しないこと、御社専用サーバ、閲覧権限、SSO、モデル・API・契約構成ごとの保持条件と処理地域。 本文へ戻る

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